時を経て

※一部内容を変更し再投稿です

今週の初め2日間は、木工の職業訓練校である上松技術専門校にてスキルアップ講座「木工ろくろ挽き講習会」の講師をしてまいりました。一般の方にも開かれた木工の技術講習会のうちのひとつで、わずか5日で挽きと刃物づくりを学ぶという超絶ハードスケジュールの講習会です。
来月下旬からは訓練生の授業も始まります。講師として行く予定です。



ガラリと話題は変わりまして、3ヶ月ほど前の話。
同じく木曽に住む友人から連絡がありました。

「だいぶ前に遠い親戚が南木曽でろくろをやっていて、亡くなってから長らく空いていた工房を解体することになったの。ちょっと覗きに行ってみない?」とのこと。
(同い年のこの女性、好奇心が衰えるどころか増している。おもしろい人だ)


後日行ってみました。
現場でご一緒してくれた家族の方から、
「使えそうな材料があれば自由に持っていっていい」と許可をいただけたので、
いくつか頂戴し早速挽いてみました。


荒挽き後、数十年乾燥させてあったのですぐに仕事にかかれます。
ひとたびカンナをあてれば、それは木目の綺麗な、いかにも大人しそうな栃の良材であることが確認できました。
※トップの写真が製品になったものです



私が今仕事としてやっていること、つまり「ろくろ挽きでうつわをつくる」この技術はすべて、過去の職人たちが※工夫をしながらつないできたものです。今を生きる職人だけが生み出したものではありません。そして現代のわずかな職人が個々で抱えて満足しているべきものでもない。だから必要であれば講師といった立場もお受けしますし、教わったこと知っていることは他者にもすべて伝えるというスタンスで臨んでいます。私の師や周りの職人方がそうしてくれているように。

※ちなみに木曽の職人は工夫して仕事にあたるというニュアンスの表現を「カンコウする」と言います。
最初は何のことだかわかりませんでしたが、字を当てるならば「勘考する」ではないかとされていて、今ではすっかり馴れました。



工房主の職人、Nさん
ご家族に了承を得て掲載しています

キャップも眼鏡もシャツも、私好みで堪らなく格好良い。
挽きは昔ながらの胡座(あぐら)スタイルで、カンナがぶれぬよう脇を締め、柄の部分は体につけて材と対峙し削りにいく。その姿勢に目がいきます。
奥に積まれている材料からも察するに、おそらく茶櫃を挽いているところです。茶道具一式を収納しておく蓋付の円筒型容器。今では需要減もあり南木曽の産地でもほぼ生産していませんが、かつてはこの茶櫃を毎日のように職人が挽き、名古屋大阪方面の問屋に卸していたようです。

こうして伝統工芸の産地に身を置きながら仕事をしていると、過去の職人や産地のすがたに思いがけず出くわすことがある。その長い歴史の探究もまた、私がこの仕事に惹かれる理由でもあります。


Nさん、ご家族の皆さん、つないでいただきありがとうございます。
敬意を込めて、残っている材料大切に使います。




今日の一曲
「Footsteps/Ryu Matsuyama」

 

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